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豆腐が飛んだ

[2015年9月16日]

白鷺

むかし、増間の村から、那古の町へ薪(まき)を売りに行ったある男が、豆腐(とうふ)を買いました。すると豆腐のおかみさんが、藁苞(わらづと)を作り、中に入れてくれましたので、男は馬の荷鞍(にぐら)へ結わえて歩き出しました。ところが、馬が歩いて体を揺(ゆ)する度に、藁苞が荷鞍の横木へぶつかり、いつの間にか中の豆腐が崩れて、どこかに落ちてしまったのです。
それを気付かなかった男が、下滝田(しもたきだ)の村まで帰ってきたとき、ふと馬の方を振り向き、荷鞍を見ますと、藁苞の中に豆腐がないではありませんか。と、そのときでした。男の足元の田圃(たんぼ)の隅から、白鷺(しらさぎ)が一羽飛び立ったのです。男は、白鷺という真っ白な鳥を知らなかったので、てっきり藁苞から落ちた豆腐が、羽根を生やして飛んだと思い、「豆腐ー、豆腐ー、待てー。」
と大声で叫びながら、白鷺のあとを夢中になって追いかけましたが、白鷺は捕まるどころか、ほどなく山の彼方へ消えてしまいました。男は、豆腐代の十六文(もん)を損したと、がっかりして、家へ帰っていきました。