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五十集屋(いさばや)娘の送り状

[2015年9月16日]

五十集屋娘

「行こか七浦帰ろか布良へ行きつ戻りつ夜があける」
古い房州追分け節の一節ですが、布良(めら)から七浦(ななうら)へ通う一筋の路沿いに、昔から白浜と呼ぶ漁村が開けていました。
そこの五十集屋に美しい一人の娘がおり、毎夜遅くまで、江戸へ積む魚荷の送り状を書いていましたが、時折、その時刻に追分けを唄いながら通る男の人がいたのです。
その声の美しさ、その調べのやるせなさに綿々として尽きぬ唄の心に誘われたのです。
娘は、歌声の男を知りたくなりましたが、電灯のない頃のことですから、月が出ていようと、いなかろうと、家並みの中の路は暗く、家の窓を大きく開けても、どのような男の人か見定める術(すべ)がありません。
やるせない思いにかられた娘は、聞き覚えた追分けの唄の歌詞を、魚荷の送り状にまで書き綴ってしまうようになったのです。
そして、その送り状は、いつもそのまま江戸の魚河岸(うおがし)まで送られました。

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