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鬼ケ瀬(おにがせ)の沈鐘(ちんしょう)

[2015年9月16日]

根本海岸

昔、白浜町の根本(ねもと)では年寄りが孫たちに、こんな寝物語(ねものがたり)をしました。
「ほら、聞こえべえ。潮の音にまじってゴーン・ゴーンと、ほら、鐘の音がよ」孫たちはじっと耳を澄まします。すると、本当に鐘の音が海の方から聞こえるような気がして、恐ろしさに息を呑んでいるうち、いつの間にか、寝息を立ててしまうのです。
遠い戦国時代の話になりますが、大阪城を築いていた豊臣秀吉に東北の伊達政宗が大釣鐘(おおつりがね)を献上することにしました。ところが、その鐘を積んだ伊達家の御用船(ごようせん)が、房州を廻って大阪に向かう途中、魔の海と呼ばれる根本の沖で大嵐に遭い、鬼ケ瀬に乗り上げて大破、積んであった鐘が海の底へ沈んでしまったのです。
そのようなことがあって一年が過ぎたとき、不思議なことが起きました。
ある夜、浜を通りかかったある漁師が「ゴーン・ゴーン」と、鬼ケ瀬の方から、一年前に沈んだ伊達の鐘の音を聞いたからです。
そのときから、何百年か経った今も夜になると、ときどき鬼ケ瀬の方から「世に出たい。世に出たい」と叫ぶような鐘の音が聞こえるのです。